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《 宇宙戦艦ヤマト Acoustic Yamato(アコースティック ヤマト) 》

 アルバムレビュー

 「宇宙戦艦ヤマト」の音楽を全て手がけた宮川泰氏のご子息、宮川彬良氏とパートナーにサックス奏者の平原まこと氏を据えてアコースティック演奏されたアルバム。

 このアルバムは、「宇宙戦艦ヤマト」の音楽がアコースティック演奏されたものというタイトル通りのストレートな意味合いの他に、一曲一曲の演奏に奥深い愛情が込められ、それを聴く歓びに触れられるアルバムとなっている。父が作曲した曲を、同じく音楽の道を歩んでいる息子が奏でるアルバムとして、この上ない幸福を感じるアルバムとなっている。

 「宇宙戦艦ヤマト」の音楽は、常に作品を盛り上げる音楽として演奏されて来たので、一つ一つの演奏がドラマチックな仕上がりとなっており、「音楽集」や「BGM集」を聞くとその曲が使用されたシーンが目に浮かぶ音楽となっている。いわゆるサウンドトラックという音楽。時として「ディスコ・アレンジ」「合唱組曲」「ピアノ」「ギター」「バイオリン」「シンセサイザー」などなどの幾つかのアレンジ・アルバムが過去に作られて来たが、当アルバムは、タイトルこそそれらのアルバムに倣っている感はあるが、作曲者を父に持つ宮川彬良氏が、父への愛情と「ヤマト」の音楽への想いを込めて演奏した他のアレンジ・アルバムとは一線を画した存在となっている。

 「交響組曲 宇宙戦艦ヤマト」を中心に選曲された構成は、アルバムへの敬意を感じるのと共に、後半に「さらば」の音楽から彬良氏が高校生の時にパイプオルガンを演奏した「白色彗星」の曲と、「ヤマト」の音楽の中でも名曲と名高い「大いなる愛」の2曲を続けて挟んでいるのは、初めて「ヤマト」の音楽に親子で関わった彬良氏にしか持ち得ない思い出と思いが込められた構成であると思う。

 当アルバムの演奏は、タイトル通りアコースティックな演奏。「ヤマト」を見て育った世代への大人の音楽が詰まっている。サウンドトラックとは異なった演奏になっており、作品からかけ離れ、一つの曲として思いを込めた演奏となっている。アルバムを初めて通して聞いた時に、なんと微妙かつ絶妙なスタンスのアルバムが出来たものかと予想外のさわやかな驚きを覚えた。このアルバムの中で、「ヤマト」の音楽は熟成という新たな道へ向かっているのを感じた。これまで作られたアレンジ・アルバムよりも内に入った感覚。そのように感じられるのは、彬良氏が手がけているものであるということが大きいが、これを機にトリビュート・アルバムも聞いてみたいと思うようになった。そう思えるようになったのも、私もまたアコースティックな演奏が身に沁みる大人と呼ばれる年齢になったということなのだろう。

 (1)イスカンダル〜深海バージョン

 アルバムの最初の曲。始めに平原まこと氏の吹くサックスがメロディーを奏で、次いで宮川彬良氏の弾くピアノがメロディーを奏で、もう一度サックスがという流れ。

 深海バージョンというだけあって、深くゆったりとたゆたうような演奏になっていて、聞いているうちに自然と心が落ち着いて来るアレンジ。オリジナルの美しいメロディーの良さに大人の余裕のある落ち着きが演奏の良さとなっている。

 このアルバムは、アコースティックの良さが詰まっている。「ヤマト」の音楽を大人の感性で捉えられるようになった年代へ向けたアルバム。「イスカンダル」の最初のサックスの音色を耳にした瞬間から、ゆるやかで静かな空間に漂う「ヤマト」の音楽と出会うことになる。

 (2)宇宙戦艦ヤマト〜砂漠の川バージョン

 「宇宙戦艦ヤマト」のテーマの「砂漠の川バージョン」。解説書にある宮川彬良氏のコメントによると「砂漠の下にねむる命、発進前夜のイメージに仕上げた」とある。なるほど、静かに落ち着いたピアノの伴奏と、盛り上がりを抑えたゆっくりと静かなサックスの奏でるメロディーが、嵐の前の静けさのような雰囲気を醸し出している。明るい昼ではなく、静かな夜にぴったりな演奏。

 オリジナルのテーマの勇ましさが好みの方には、このバージョンはいささか落ち着き過ぎているかも知れない。「1」の古代や島のような年齢ではなく、沖田艦長くらいの年齢向きの落ち着きのある曲なので、これまでと曲のイメージがガラっと変わっている。繰り返し聞いていると、割と心地良いテンポでゆったりとした気分になる。

 (3)序曲から 無限に広がる大宇宙

 名曲「無限に広がる大宇宙」のアコースティック・バージョン。スキャットのメロディーをサックスがメインに奏でている。

 始まりは、ゆっくりと静かにサックスによるスキャットが流れ、中盤に入ってピアノとベースが引き継ぎ、再びサックスが加わって少しずつ曲が盛り上がり、そして、ベースによる殊更低い音色のスキャットのメロディーが奏でられ、ラストは、ピアノによる静かなメロディーで締めという流れ。ベースと微かに聞こえるシンバルが効果を出していて、ジャズテイストな仕上がり。

 (4)真赤なスカーフ〜ボサノババージョン

 音に合わせて自然とスイングしたくなるようなボサノバにアレンジされた曲。大人の遊び心が盛り込まれ、文字通り音を楽しむような力みのない演奏を聞くことができる。

 「交響組曲」には、サンバのリズムの「真赤なスカーフ」が収録されている。ことさら明るいリズムで、あのエンディングテーマのしめやかさとはガラリと変わったイメージで、宮川泰氏らしい一面でもあった。このサンバのリズムの「真赤なスカーフ」がきっかけの一つとなり、アコースティック・アルバムが作られたと解説書にある。

 (5)サーシャ

 ピアノの静かな優しい音色に始まり、そこへ変化を誘うサックスの音が絡み、両者に導かれるようにして中国琵琶の演奏が絡むという構成。

 オリジナルは、木管とバイオリンとハープが絡み合った儚くも美しいメロディー。それと同じ曲が、たった一つの楽器の中国琵琶が加わったことでがらりとアジア的な響きの音楽となった。出だしの部分こそオリジナルの雰囲気が感じられるが、中盤からは一つの癒しの音楽として独立した曲として聞くことのできるアレンジ。

 (6)白色彗星〜ジャズバージョン

 タイトル通り「白色彗星」のジャズバージョン。パイプオルガンの印象の濃い曲をジャズアレンジし、彬良氏のピアノと平原まこと氏のサックスが軽やかな大人の音楽として仕上げている。

 「さらば 音楽集」の解説書には、「白色彗星」のパイプオルガンに「志村拓生」と名前が挙げられているのだが、実際には当時高校生だった宮川彬良氏が弾いていたとのこと。「アコースティック ヤマト」の解説書に「私のトラウマ」と彬良氏自身がコメントしていて、続いて当時の苦い思い出が綴られているが、なかなかどうして印象に残る演奏だったと思う。

 そして、時を経て「約30年後、私はもう一度、恥をかきたかった」とのことで、この「白色彗星」のジャズバージョンを収録しているが、流石「恥をかきたかった」と余裕を持って語る大人の音楽となっていて、「ヤマト」のファンでなくては、この曲が「白色彗星」だとはすぐにピンと来ないであろう洒落た演奏となっている。当時の高校生奏者がよもや再びこの曲と接することになろうとは夢にも思ってなかったであろうロマンが感じられる曲。

 (7)大いなる愛

 数ある「ヤマト」の音楽の中で”愛”を奏でた楽曲としてスケールの大きさやテーマの純粋さから全シリーズの「ヤマト」の”愛”をこの一曲で伝えてしまうほどの奥深さを持っている名曲を、彬良氏と平原氏が丁寧に愛情込めて演奏している。

 レビューを書くにあたってこの曲のみを繰り返し聞いているうちにちょっとした発見があった。アルバムの1曲目から聞いていると、確かにアルバムのコンセプトに沿った他の曲とのバランスの良い自然な演奏なのだが、この曲だけを抜き出して繰り返し聞いていると、不思議なことに他の曲の存在が感じられない。他の曲を聞いている時は、前後の曲の演奏がちらほらと過ることがあるのだが、この「大いなる愛」に関しては、まるでこの曲の為だけのような存在感がある。この重みこそがこの曲の持つ”力”なのではないだろうかと感じた。そして、解説書で彬良氏がコメントしている「(前略)この曲はスケールが大きく、他に有無を言わせないところがある」なのだと思う。

 演奏を聞いていて、「交響組曲「新 宇宙戦艦ヤマト」」の「最終章 大いなる愛〜真赤なスカーフ(ピアノとバイオリン・ソロによる) 」の演奏を思い出した。この曲の演奏は、宮川泰氏のピアノと彬良氏の奥様・由利子さんのバイオリン・ソロによるもので、シンプルでしっとりとした温かな演奏。彬良氏のピアノの「大いなる愛」と続けて聞くと、家族の温もりとピアノの響きの類似といったものが二曲間に流れ、異なるアルバムに収録されている演奏であるにも関わらずほとんど違和感がない。もちろん、ピアノのタッチには宮川泰氏らしさと彬良氏らしさがある。しかし、根底的な部分の両者に通っている「血」が演奏を通して伝わって来て思わず胸が熱くなる。

 (8)スターシャ

 始めにサックスがメロディーを奏で、脇でピアノが優しく伴奏し、次にピアノがメロディーを奏で、サックスが控えめに伴奏し、そして再びサックスがメロディーを奏で、しめやかに演奏が終わる。アルバムの余韻に浸れる大人っぽい静かな曲。

 解説書の彬良氏のコメントの中に「スタジオの隅で書いたようなオーケストレーション」という表現がある。こういう表現は、正式に音楽を学んだ人でこその表現であると思うので、私には掴みかねるが、その前に書いてある「素朴に聞こえて来たメロディー」には、同感できる。スターシャは女神であり尊い存在であったが、奢ったところのない素朴な人柄でもあった。そんなホっとするスターシャの人となりがこのアコースティック演奏にもよく表れている。
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